今回はスピードを養成し、リラックスした効率良いフォームを作るスプリントトレーニングについて紹介します。
- 100mX10
- 150mX6(3段階切り替えトレーニング)
- ヒルスプリント50〜100mX10
- イージー・ファルトレク(ジョグに100~300mのスピード走を挟む)
- ダイアゴナルズ(Diagonals=対角線上のスピード走繰り返し)
- 路面について
- いつ行えばよいか
ニュージーランドの名コーチ、アーサー・リディアードは真にスピードをつける練習は不完全な回復で行う無酸素的なレペテイション(インターバル)トレーニングではなく”スプリントトレーニング“であり、良いフォームを身につけるのに欠かせないものだと断言しています。
長い距離はいくらでも走れるけど、ペースを上げると歩幅を広げすぎるオーバーストライドになり、肩を強張らせ上体を揺する非効率的なフォームでしか走れないのは、スプリントトレーニングの欠如が影響している可能性は高いです。
スプリントトレーニングではほぼ全力スピードで走るものの、距離が非常に短く、また十分に回復時間をとって行うため疲労が蓄積しにくく、インターバルトレーニングのように何日も回復期間が必要となるトレーニングとは異なります。
ハードなトレーニングの前後に行っても問題無く、例えばロング走で脚が重くなった次の日や、インターバルやレース前日の刺激入れとして行うのも有効です。
ただし慣れないうちに筋肉を痛めるキッカケになったり、次の日とても疲れた感じが残るので急なやり過ぎには注意して行いましょう。
短距離的な速い動き、爆発力を鍛えるには、動き作りドリルや、バネを鍛えるプライオメトリクス、ウエイトトレーニングなども有効ですが、今回はあくまで全力で走る事でスピードを鍛えるのを重視したメニューに絞っています。
100mX10
基礎的なスピードを養成するシンプルなメニュー。
「できるだけ速く、かつリラックスして走る事」を意識して、間はジョグ、またはウォークで3分程度空けて十分に呼吸を整えて行う事が大切です。
しっかりスピードをつけたい時はこのような練習を週2〜3回行うと有効です。
時にはただ速く走るだけではなく、足の回転だけを意識したり、ストライドを伸ばす等意識を変える事で色んな技術を走りながら学んでいきましょう。
150mX6(3段階切り替えトレーニング)
100mより少しレベルアップした練習。
150m走は海外のトラック選手にとってはよく行われるメニューのようで、ワールドクラスの5000mランナーであるベン・トゥルー(PB13:02)、ヘスス・エスパニャ(PB13:04)もトラックシーズン中、ハードなインターバル日とは別にこの150mスプリント走を入れていたようです。
50m毎にマークを置き、最初の50mは流し、次の50mを800m〜1マイルレースペース、最後の50mを全力と、ラストスパートの切り替えを意識して行います。
最初はこれほど厳密にやらなくても、後半に向けて回転数とスピードを上げていく意識で行ってもいいと思います。
これも3分程度ウォークや軽いジョグを挟み、1本1本集中して行いましょう。
ヒルスプリント50〜100mX10
数々のトップ選手を指導したイタリアの名コーチ、レナート・カノーバ氏が勧めるヒルスプリント。急坂を全力で走る事で、長距離の練習だけでは使えない、より多くの眠っている筋繊維を使う事ができます。
マラソンでさえ、レース終盤には眠っている全ての筋肉を使って走らないといけません。鍛えた”速筋繊維“はラストスパートで使われる事になり、最終的な勝負やタイムの明暗を分ける事もあります。
上り坂では臀筋、ハムストリングといった爆発力アップに欠かせない筋肉の強化だけでなく、足首の柔軟性を高めつつ、ふくらはぎの筋肉を強化し下腿の故障予防効果もあります。
良い練習場所があれば、これもたまにラスト1本だけ200〜300mの長いヒルスプリントを入れるのも効果的です。それほど大きな負担はかけず、スプリントを持続する能力を高める事ができます。
イージー・ファルトレク(ジョグに100~300mのスピード走を挟む)
できれば細かいアップダウンのある変化に富んだコースで、自由きままにスピード走を入れていきます。
ファルトレクにも色々なやり方がありますが、ここではスピードをつけたいので、主に短い距離をほぼ全力で走る方法で行います。
“イージー・ファルトレク”ではきっちり距離は決めず、短い上り坂を全力で走ったり、緩やかな下り坂を上体の力を抜いて速く走ったりといった感じです。
追い込む事が目的ではないので、一度速く走ったら、次のスピード走は長めのジョギングを挟んでから行います。
バリエーションをつけるため、時にはダッシュだけではなく1〜2分程度の持続走を入れてみるのも良いと思います。
メインの目標はイージー・ファルトレクでは楽しんで行う事が大切です。
ダイアゴナルズ(Diagonals=対角線上のスピード走繰り返し)
400mトラックの内側の芝生を斜めに120m程度走り、短いジョグで繋ぐ”流し“を繰り返します。
ケニア発祥のメニューで、サッカーチームの練習でも行われているようなのでここから参考にしたのかもしれません。
インターバルトレーニングのように不完全な回復で疾走を繰り返すので、厳密にはスプリントトレーニングとは異なりますが、これも短時間で終わるので何日も疲労が残るような練習ではありません。
俊敏性、ピッチを上げてペースを切り替える能力を気軽に鍛える事ができる練習です。
SUSHI MAN編集長のnoteにより詳しい説明が載っています。
路面について
平地でのスプリントはトラックでスパイクシューズを履くのが最高のトレーニングですが、ロードで行っても十分な効果を得る事ができます。
柔らかい不整地で行うとMAXスピードは出しにくくなりますが、足裏を鍛え接地の感覚を磨いたり、ハムストリングの筋肉を使って足を素早く引き上げる良い練習になります。綺麗な芝生を裸足で走るのもオススメです。ヒルスプリントも含め、色々な地形を使い分けて練習効果を高めましょう。
いつ行えばよいか
レースやハードなポイント練習の前後に行っても問題無いと言っても、単純な疲労とは別に、ハードなマラソン練習を続けながら、スプリントトレーニングも毎週やると、精神的に集中できなくなってしまうことがあります。
時間が無いアマチュアランナーも、そんなに色々な練習を入れる余裕が無いという人は、大事なマラソンシーズンが終わってレースが少ない時期にスプリントトレーニングを集中して多めに入れてみてはどうでしょうか。
全力走と言っても、間に十分に休憩時間をとり、フォームを崩さないように行えばインターバルトレーニングよりはずっとリスクの低い練習です。筋肉やアキレス腱を痛めやすい人は強度や量を少しずつ上げていきましょう。
アメリカの中長距離選手の活躍から、日本でもスプリントトレーニングが注目されるようになりましたが、今から40〜50年前にはマラソン選手にも効率良いフォームを身につけるため短距離レース出場を推奨してきたリディアードコーチの理論は現在も古さを感じさせません。
スプリントトレーニングで良いフォームを身につけていけば、強度の高いインターバルに取り組みやすくなり、練習効果もより出やすくなってきます。