今回はアシックス初のカーボンプレート&FFブラストターボ入り”スーパースパイクシューズ“、「METASPEED LD 0(メタスピードエルディー・ゼロ)」レビューです。
- アシックス独自のピンレス+厚底のドリームシューズ
- 重さ、サイズ感
- 3000m〜10000mの自己記録を全て大幅更新(2022年更新)
- 薄底マラソンシューズやMSエッジとの相性の良さ
- まとめ
- 2024年11月以降は使用不可能なシューズに…。規制の境界線とは。
このスパイクはトラックの5000〜10000m用スパイク。販売は公式サイトや一部ショップのみで数十足、サイズも限られており、激レア商品となっておりましたが、約9ヶ月後の2022年4月にやっと0のとれた「メタスピードLD」の販売が開始されました(税込27500円)。
ほとんど同じだとは思いますが、アッパーを中心にマイナー調整が加えられているようです。
ぼくは運良く“0”バージョンを手に入れることができたのでこちらを基準にしたレビューとなります。
アシックス独自のピンレス+厚底のドリームシューズ
なんといっても特徴はアシックス が以前から取り組んでいた独自の技術であるピンレススパイクであること。
トラック用シューズである従来のスパイクについているピンの代わりにヘキサクロウという突起で地面をしっかり捕らえます。
もちろんLD0もオールウェザートラック専用です。(もしアスファルトでつかったらヘキサクロウが割れてしまうと思います。芝生のクロカンレースで使っている選手はいました)
これにロードレースの“ゲームチェンジャー”となった厚底シューズの要素が存分に取り入れられています。よく弾み軽くクッション性も生み出すFFブラストターボと、それを安定させさらに効果を引き出すカーボンプレートの組み合わせ。
アシックスの最新技術と長距離用厚底の恩恵が融合した、まさに“ドリームシューズ”と言えるようなテクノロジーが搭載されています。実際その恩恵は凄まじいものです。
愛用していた薄底マラソンシューズの「ソーティマジックLT2」と比較すると、見かけはメタスピードLD0の方が完全に厚く見えます(特に前足部のボリューム)。LT2はソーティシリーズでは若干厚めなのですが。
中底というか、厚底スパイクというか、そんな感じの印象を受けました。
長距離用のスパイクということで、この厚さとクッション性もあり、“3000m以下の短い距離では厚みが余分に感じるのでは?”とも思ったのですが、厚底シューズのような反発が脚を前に運んでくれるので、全く物足りなさは感じません。
スペインのモハメド・カティル選手はこのメタスピードLD 0で大ブレイク。5000mをメインに世界最高峰のダイヤモンドリーグで活躍していましたが、1500mでも3分28秒76(当時世界歴代9位)のとてつもない記録を打ち立てました。中距離でも全く問題が無いことがわかります。
重さ、サイズ感
重さは27.5cmで137g。この厚さでロード用の薄底マラソンシューズより軽い(大体160g前後)。
サイズは心配でしたが、他のアシックスのシューズと同じ27.5cmで“ほぼピッタリ”。
余裕は無いけど、トラック用というのもあり、これくらいのややタイトなフィット感でも問題は無いかなという所。
きつかったという人も少なくないようなので、心配ならワンサイズ上げるのをオススメします(なかなか気軽に試し履きできないのが難しい所ですが)。
個人差はあると思いますが、自分の場合はメタスピードスカイ/エッジのように明らかに親指の部分に余裕が無いという感じではありませんでした。
3000m〜10000mの自己記録を全て大幅更新(2022年更新)
2022年春頃からコロナによる大会中止も減り、本格的に記録を狙う遠征を再開。
5〜6月の短期間で
10000m・30:35→30:14
5000m・14:43→14:37
3000m・8:41→メタスピードLD初使用で8:30→さらに8:29に更新
と大幅に自己記録を更新に成功。
以前では明らかにオーバーペースだったタイムでもふくらはぎのダメージを疲労をほとんど感じず走れるのが驚きでした。
一方で、まだ身体で仕上がってない時や、いまいち乗らないレースの時は従来のシューズと大して変わらないパフォーマンスだったりもするので、あくまで自分にとっての限界を引き出しやすくしてくれる高速使用のシューズなのかとも感じました。
薄底マラソンシューズやMSエッジとの相性の良さ
当時は厚底の移行に苦労していた自分が、なぜメタスピードLDはすぐに大きな恩恵を受けれたのかを簡単にまとめてみました。
①愛用しているメタスピードエッジと素材や厚さが近い
②今まで使っていた薄底マラソンシューズと同じくらいの厚さ
③従来のトラック用スパイクより、ロードに近い感触で走れる
③はロードを走ればメタスピードLDで速く走れるという事ではなく、従来のスパイクよりロード中心の練習でも力を発揮しやすくなったという意味です。
厚底に近い恩恵といっても、トラックで使える25mm以下のシューズなので乗りこなさないといけないような不自然さはなく、メタスピードエッジと今までの薄底マラソンシューズの中間くらいの感覚の走りやすさがあります。
自分にとっては既にメタスピードLDを履く準備はほとんどできており、使ってすぐに大きなパフォーマンス向上に繋がったのだと思います。
特にマラソン・ロード中心のランナーがトラックで記録を伸ばしたい、スピードをつけたいというのを強く後押ししてくれるシューズですね。
まとめ
評価…S
◎反発、グリップ、軽さ
◯接地感、クッション
-耐久性、フィット感
△価格(しかも手に入りにくい)
☆薄底、カーボン厚底、スパイク全ての良いとこ取りというまさに夢のシューズ。メタスピードシリーズ最高傑作。
△値段は他のプレート入りスパイクと比べても高めで、一般販売も始まったものの、まだ手に入りにくく、試し履きできる機会も少ない。フィット感はややタイトで、サイズを失敗したという声も聞かれる。耐久性はそれなりにある。
◯800m〜10000mまでの25mm以下規定使用可能シューズ※2024年以降から変更アリ
▷(METASPEED LD (アシックス プレスリリース)
▷コスモレーサーLD 2(メタスピードLD 0とアッパーが同じ。トレーニング用に)
▷LDジャパン(これまで愛用してきたスパイク。ソーティ系と同じアッパー、フィット感はこれが1番)
↓メタスピードLDのトレーニングとしても使えるメタスピードエッジレビュー
2024年11月以降は使用不可能なシューズに…。規制の境界線とは。
理想的な長距離用スパイクにも思えたメタスピードLDですが、世界陸連のシューズ規則に更なる変更が加えられ、パリ五輪後の2024年11月以降はトラックの厚さ制限が中長距離種目も25mm→20mmとなることが決定。
メタスピードLDは20mmは超えているので、猶予期間はあるものの、中長距離の世界歴代トップ10に入る記録を残したシューズで初のレースで使用不可能な禁止シューズになるのが確定してしまいました。
理由は一つではないと思いますが、個人的にはメタスピードLDの登場はかなり影響したのではないかと思っています。
この記事の解説でも述べたように、このスパイクはある意味"トラックで薄いシューズを使って適切なスピード練習、脚作りをしなくても、レースで結果が出せてしまうシューズ"という事も言えます。
トレーニングをショートカットするような恩恵のある道具は陸上競技の主旨、精神と反する部分があり、最新テクノロジーが詰まったこの”厚底スパイク“はラインを超えてしまったのかもしれません。
1番自分に合っているスパイクだと思ったので残念ではあるものの、このルール変更自体は筋が通っており納得できるものだと思いました。
ただ陸上競技の価値や公平性に重きを置くなら、それ以前にスーパーシューズの影響であらゆる歴代記録が塗り替えられている現状にも、世界陸連はもっとできることがあったのではないでしょうか。
結局世界記録が続出した厚底シューズやスパイクは一度もルール変更の影響を受けず、アシックスやニューバランス、ブルックスの新スパイクが禁止シューズになってしまったという事実には、なんとも奇妙なものを感じてしまいます。
何はともあれ、新しい道具と度重なるルール変更に対応しながら、自分の好きなシューズを選ぶのも今の楽しみ方の一つなのかもしれません。
ひとまずはメタスピードLDでどれだけ記録を伸ばせるか試していきたいと思います。
※2024年以降の新ルールはまだ詳細が明らかになってない部分もあり、アマチュアレベルでは影響を受けないようにする取り組みも進めているようです。個人的には発表された新ルール前提で準備した方がいいと考えています。