まるランニングマガジン

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Takemaru Yamasaki マラソンランナー&プロランニングコーチ

打倒・最強公務員ランナー?王者として挑んだ高知龍馬マラソン【2015年大会プレイバック、その後】

記念すべき「まるランニングマガジン」最初の記事。ブログ1周年記念ということで、龍馬マラソン後の話も追記しています。

 

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 2015年を振り返ってみるとやはり川内優輝選手との出会いがぼくにとって一番大きな出来事でした。

2014年に地元の高知龍馬マラソンで優勝し、その約半年後に川内選手の龍馬マラソン出場が発表された時は身体が震えました。

それまでも福岡国際マラソンゴールドコーストマラソンといった国際的な大会でお会いした事もあったのですが、地元の大会にやってくるというのはなんとなく運命のようなものを感じましたし、単純に一個人として”オイシイ”という思いもありました。
間違いなく注目度はケタ違いになります。

また川内選手は、こちらがボールを投げれば、必ずキャッチボールに応じてくれるような人です。

ぼくが地元メディアを使って対決を盛り上げるような事を言えば、必ず応えてくれると思いました。

ぼくは前回優勝者といっても特に招待等の優遇はなく、普通にランネットで一般参加選手としてエントリー。もちろん実績も全く違いますし、完全に挑戦者というつもりで準備していました。



ハッキリ言って万が一にも川内選手に勝てるとは思っていませんでした。が…

タイトルに?をつけたのは初めから勝てる可能性はまず無いと思っていたからです。

出る前に負ける事考えるバカいるかよ!とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、川内選手のマラソン全成績を見ていただければ、その理由がわかると思います。

2014年は一番遅い千歳JAL国際マラソン(未舗装路含む非公認コース)で2時間15分57秒
ぼくの自己記録(2時間23分21秒)はもちろん、ずっと破られていない高知県記録(2時間16分32秒)も上回っているのです。

データは、奇跡ですら川内選手の絶対的な安定感の前では通用しないことを示しているように思えました。

一方でぼくは川内選手についていくことを本気で考えていました。
レースで鍛える川内選手にとっては、地方マラソンはトレーニングの一環でもあり、ゴールタイムはだいたい2時間12分~15分。

マラソン練習をしながらハーフマラソンで1時間6分前後の記録で走る事が出来れば、本番の龍馬マラソンで川内選手と中間地点まで先頭争いを出来るのではないかと思ったからです。

そのためには2月までに県外の強豪実業団選手が集まるハーフマラソンで自己記録を大幅更新する必要がありました。

11月~12月はいつものように四国駅伝、高新ロードと地元のレースを走りましたが、本番は2015年になってからと思っていました。

 

 

1月のハーフ2連戦、自己記録更新
そしてエントリーしたのがおおいたシティハーフマラソンと大阪ハーフマラソン
大分では黒崎播磨のアベラ選手が1km3分を切るペースで飛び出すかなりきつい展開になりましたが、なんとか後ろのグループにしがみつき、九州の学生や実業団選手と競り合いながらセカンドベスト(1時間8分15・14位)でフィニッシュ。

目標の記録には届きませんでしたが、10000mを30分前後で走るランナーと互角に戦えたのはそれなりに自信に繋がりました。

13日後の大阪ハーフでは自己記録という目に見える形で実力アップを証明するつもりでした。

レースでは40分前に整列し、まともなウォームアップができない初めての経験(実業団選手はレース開始直前に整列)、今回も格上相手にオーバーペースでもなんとかくらいつくという非常に苦しい展開でした。

5km15:24で入り、後は16分10秒前後で耐えしのぐペース配分で自己記録を11秒更新(1時間7分32秒・19位)。

厳しい条件やレース展開の中、久々に自己記録を更新出来た達成感は本当に素晴らしいものでした。

また1月は初めての学校講演も無事成功に終わり、とても充実した2015年のスタートを切ることができました。
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そして運命の2月へ…
しかし目標としていたハーフ1時間6分前後の記録までは伸ばす事が出来ず、川内選手についていくにはまだ力が足りないなとも思っていました。

あとはこれからの調整次第、という感じでしたが、2月に入ってからズルズルと調子が落ちていき、龍馬マラソン1週間前にウイルス性腸炎で寝込んでしまう事態に。

熱が下がった後も、当日まで腸の不調は治まらず完走が危ぶまれる体調になり、その中で取材も受け平常心を保つのはなかなか大変な作業でした。

一方で川内選手も年末の足の捻挫の影響で不調が取り上げられていました。

改めて、年間を通して日本中から注目を集める異常な環境に自ら身を置き続ける川内選手の凄さを知りました。


高知新聞の直前特集では川内選手とぼくの対決を煽る記事が大きく掲載される
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どうやら9月からのぼくの目論見はほとんど計算どおりにうまくいったようです。
川内選手はぼくの投げたボールをきちんと返してくれました。

ぼくはあたかも川内優輝選手と同格のランナーであるかのように取り上げられ、高知県内で大きく名前を売る事に成功しました。

あとは本番のレースで、行ける所まで川内選手についていくだけ…


何も出来なかった本番…
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振り返るのもはばかられる、それはそれは辛い42.195kmでした。

最初から川内選手と2位になった板垣選手には全くついていけず、ズルズルと消耗して後続にも追いつかれ、それでもその中で抜かれまいと勝負したのはせめてもの意地でした。

レース後、何人かの人から言われた厳しい言葉はぼくの心をさらにえぐりました。

この時の惨めな気持ちを一生忘れる事はないでしょう。

帰って高知龍馬マラソンの録画を見ましたが、やはり川内選手との役者の違いは歴然でした。

走りだけではなく、なにもかも全てにおいてやはり並んで語られるような存在ではありませんでした。

いつもは大好きなマラソンレース中継の録画を繰り返し見ていますが、このレースは見るのが辛く、一度しか見ていません。

背伸びしてデカいことを言って名前を売って、肝心のレースで何も出来ず終わって…

ただ、川内選手を目指した5か月間はぼくの14年の陸上競技生活の中でも最も充実した期間だったように思います。

大きな目標が人を変えるのだという事を実感しました。

この経験はぼくだけの大事な宝物です。

ぼくのような地方の弱小ランナーの挑戦を真正面から受けとめてくれた川内選手には感謝の気持ちでいっぱいです。

川内さん、本当にありがとうございました。

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とにかく9月から始まった川内選手を追いかける旅は終わりました。

 

結果

2時間27分43秒(4位)

(5km)16:13/16:34/17:18/17:49/18:04/18:30/17:28/17:49/7:56

HALF71:54-75:49

 

 

その後。川内選手から学んだこと

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それからも何度も川内選手と同じレースで走る機会もありました。

朝霧湖マラソン、ゴールドコーストマラソン、五輪選考会のびわ湖毎日マラソン今治シティマラソン、高島平ロードレース…当然の事ながら一度も先着した事はありません。

しかし何度かお話する機会もあった中で、ぼくは川内選手の持つ人間的な魅力にすっかり魅了されてしまいました。

川内選手はいつも情熱的でエネルギッシュ、そして走る事が凄く楽しそうです。

一緒に走るランナーはもちろん、テレビや沿道で観る人に元気を与える力を持っています。

感心すると同時に、日本のトップランナーはやはりこうでなきゃ、と嬉しい気持ちになりました。

ぼくも今まで見てきた「走る事を職業とするランナー」はほとんどが、”これは仕事なんだから当然だ”言わんばかりのどこか悲壮感が漂っており、走る事を心から楽しんでいる人に出会ったことは一度もありませんでした。 

でも、ワクワク楽しんでいるランナーの周りに人が集まり、マラソンというスポーツはさらに魅力的なものになっていくことを川内選手から教わったように思います。

ちょっぴり悔しい気持ちもありながら、ぼくは川内選手から学んだ事を高知でも活かし、現在では自分のランニングクラブも立ち上げることができました。

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今治シティマラソンにて。ここでも1週間前に出場したベルリンマラソンの魅力を熱く語ってくれました。

 

新たな出会い

 

高知龍馬マラソンからの流れは、川内家三兄弟との出会いにも繋がりました。

鴻輝君と鮮輝君は走力的にも近く、刺激し合うライバルであり、志を同じくする仲間のような存在です。

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2月の徳島練習会。川内家の三男・鴻輝(こうき)選手と3:40/kmペースでの30km走。この後びわ湖マラソンで2年振りに自己記録を更新する事ができました。

 

https://www.instagram.com/p/BLgG1n5Dqd8/

四万十川ウルトラマラソンに挑戦した川内家の次男・鮮輝(よしき)選手。

 ▷走れ、優輝!(川内 美加 中央公論新社)

 

次は愛媛マラソン

 次に川内優輝選手と一緒に走るのは2017年2月12日の愛媛マラソン。

先日の福岡国際マラソンではまさに伝説に残るような川内劇場を魅せてくれました。

愛媛マラソンも盛り上がるでしょうね。

 

同じ招待選手という立場で走るのは特別な感じで、2015年の高知龍馬マラソンに挑む時と同じような気持ちで本番に向けてトレーニングを進めています。

 

全てにおいて圧倒的な差に気が重くなる事もありますが、やっぱり素晴らしい舞台で川内選手と一緒に走れるのが今から楽しみです。