まるランニングマガジン

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Takemaru Yamasaki マラソンランナー&プロランニングコーチ

120%の準備で臨む、ゴールドコーストマラソン2025振り返り【6年振りPB更新】

ゴールドコーストマラソン2025、レース振り返り。

 

 

緊迫のレース前夜...

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予定通り3時起床(レースは6時15分スタート)。

レース前夜はじんわりと汗が出て何度も目が覚めてしまった。


なぜか、今回は今までに無く緊張している。

この3ヶ月間ほぼ計画通りに練習を消化し120%の準備ができた。

こういう時はやれることはやってきたと自信を持ってスタートラインに立てるはずだが、失敗したら言い訳ができないという力みの意識が生じている。

ずっと言い続けている最大の目標は高知県記録更新(2:16:33)。


レース前のエリートランナー向けルールミーティングでは昨年のようにハーフ67分通過のペーサーはいない事が判明したが、負傷から復帰途中の川内優輝選手が「キロ3分10秒(2時間15分切りペース)で一緒に行きましょう」という願ってもないお誘いが。


ついていきますと即答したが、自分の力が伴ってなかったらと思うと怖くなってきた。


凄く絞れてて仕上がってますね、と周りの人から何度か声をかけてもらった。


2週間前の5000mは平凡なレースに終わっている。


理想のパフォーマンスと、等身大の自分のギャップ。


今日ぼくは自分の力で運命を変えることができるのか。

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今回はJTBで用意していただいたおにぎりとバナナ、これにヨーグルトとバナナブレッド、コーヒーを追加した朝食。普段通りパンを食べようか悩んだがバタバタして買いに行けなかったので助かった。

 

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いつものエリートランナー用ウォームアップエリアへ。曇り〜小雨予報のためか気温・湿度がやや高めで準備はしやすかった。

 


レース序盤、いきなりのピンチ

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レーススタート。予定通り川内選手についていく。

集団はサンベルクスの山下選手(地元は愛媛県)、海外レースでよく一緒になる牧野選手の4人。


もう少し豪州や他の国の選手もついてくるかと思ったけど、まぁ想定内。


ただ、川内選手も最初は速めのペースでリズムを作っていったため結構きつく、いきなり発汗量も増えてきた。


ぼくの場合は、3:10/kmまでならなんとかマラソンペースのリズムで対応できるが、そこからは2~3秒速くなるとだいぶ差がでて硬さが出てしまうことがわかった。


5km行くまでに細かいペース変化で余裕がなく、集団から脱落寸前。

牧野選手が後ろからサンドイッチするような形で”前に追いつきましょう”と声をかけてくれた。


最初から無謀な選択だったのだろうか。弱気になり後ろを振り返って他の集団に吸収されようかとも思ったが、見当たらない。

 

そんな中、少しづつペースが落ち着いてなんとか追いつくことができた。

5km通過は15分41秒。速過ぎるということはないだろう。このまま行ってみよう。


いきなり訪れた大きな危機を乗り越えた。

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5km過ぎからは3:10~15/kmの間程度になり、離れることはなくなったが、一旦最初の緊張をほぐす必要がある。

川内選手にはペースが落ちたら交代して協力しながら行きましょうと威勢の良いことを言っていたが、今はとても無理。ごめんなさい。

 

5-10kmは16分08秒。やはりこのあたりのペースには反応が良く、徐々に調子を取り戻しつつあった。

 

そして、川内選手が予想以上に消耗してる事に気がつく。


牧野選手や山下選手が前から落ちてきた選手を追いながら、ペースを落とさない動きを始める。

呼吸が荒い川内選手。

川内さんもきついんだとわかり、人任せではなく、自分でレースを作っていく強い気持ちが大切だと心を引き締める。


13km付近からはぼくが集団を引っ張っていく。


10-15kmは16分17秒。落ちてきたがまだ丁度良いと言える。


1km毎の通過が早く感じてきた、と気分良く走っていたら、いつの間にか後ろからきた3人の集団に追いつかれた。


少し驚いたが、集団が増えるのはありがたい。


前を引っ張るニュージーランドのドライデン選手は何度か急にペースを上げたりしてきたが、これもリズム作り程度ですぐ落ち着いたので気持ちよくついていくことができた。

 

15-20kmは16分17秒。ハーフ通過は67分58秒。

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想定していたより1分程度遅いペースになったが、自分の走りやすいペースに安定し、この辺りが1番良い流れになっていると感じた。

少なくとも25kmまではこの集団で安心していける。危うい所もあったけど、ここから集中してタイムを狙っていけるぞ。


しかし、安堵の状況はそう長くは続かなかった。


ここまでスペシャルドリンクはしっかり全てキャッチ(MUSASHIのリプレニッシュを使用)。

軽く手についた糖質が固まると腕振りがしにくくなるので、途中でペットボトルの水を受け取ってサッと洗い流す。

周りを見ると、身体にかけている選手もいる。

 

そういや、少し暑かったな。ぼくもついでにやっておくか。

すると湿度も高かったためか、ウェアがべっとりして腹部が一気に重く感じてしまった。


これはまずい!予報では雨が降るかもということだったが、全く降らない曇りで今が1番快適な時間帯だった。

少なくともぼくにとっては、全く水をかける必要などなかったのだ。

 

そして23km付近でまたドライデン選手がペースアップ、これで脚まで重たくなってしまい、スタミナが切れが始まったかと思うくらい身体の反応が悪い。

 

そこに山下選手とインドネシア勢がつき、集団から離れていくぼく。

近くにいた川内選手、牧野選手、アレックス選手もついていけない。

再び思考が後ろ向きになってしまったぼくは、リスクの少ない後方集団と走る判断をした。

 

大きくレースが動いた25km

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20-25kmは16分16秒。

それほど落ちてなく、前の集団もまだ近い位置にいる。しかしぼくの力だけで追いつくのは難しいしんどい距離だ。

 

そもそも身体に水をかけたら調子が悪くなるんだったら、もし今日雨が降ってたら失速してるし、雨の日のレースは絶対走れないことになるじゃないか。

ぼくの馬鹿野郎!この身体の重さはちょっとした一時的なものか、多分気のせいだ。

 

と、無理矢理言い聞かせて、短時間で気持ちを切り替えられたのは良かった。ペースを戻そうと集団を引っ張っていく。


しかし他のメンバーも足取りは重く、アレックス選手がたまに前に出てくれたが、リズムが崩れ完全に3:20/km付近のペースにハマっていくのがわかった。

 

ぼく的にはゴールドコーストはこの辺からきつくなることが多く、30km以降大丈夫かなと不安になる。


25-30kmは16分40秒。明らかに落ちた!

 

覚悟を決めた30km以降

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ここでタイツに仕込んであったFIXXのジェルを取り出して補給。本当は20km付近で飲むつもりだったが余裕がなく、もしものために温存していた。

流れを変えるにはここしかないだろう。

ジェルとをとると、次第に脳がスッキリしてきた気がする。


ゴールドコーストマラソンは30km過ぎで一旦スタート会場付近に戻ってくるコース。

メンタルが折れやすくなる地点だと感じる人もいるようだが、ぼくは観客が沢山いるこのサウスポートエリアが1番元気が出やすい。

 


少しペースを落として体力回復したのかもしれないし、色々重なったのか明らかにぼくの走りが切り替わってくる。

唯一のきついめの坂の部分を難なくクリアし、リズムを取り戻して前に体重を乗せていく。


残り10km、ここまで2度弱気になりかけた場面があったが、怖いものなんて無くなったような気持ちになってきた。

 

引っ張り続ける形ではあるが、あの川内選手が勝負所の終盤でぼくと一緒に走る選択をしたという事は、良い走りができているという自信になる。

 

アレックス選手は脱落し、川内選手との一騎打ちに。

 

長年の経験から、きっと今の勢いは35kmを過ぎても持続できると思った。


そして、きつそうだった川内選手はこのペースには最後までついてくるであろうことも。

 

30-35km、16分25秒。

ここにきてグッとペースアップ。ただ昨年もこの5kmは少し短く感じたので(前の5kmが長い?)、油断せず、もうタイムは見ないで感覚で行こうと思った。


予想通り、"35kmの壁"を過ぎてもハンマーで殴られるような大きなショックはない。


もちろんきついが、まだ自分の意思で身体をコントロールできている。

ここまでくれば、1kmずつ丁寧にやっつけていこう。


36km、37km、38km、まだ大丈夫…。

途中、前から落ちてきたリース選手を捕まえる。


そして39km手前で、遂にいつものやつが全身を駆け巡る。

力が入らず、ペースを維持することができない。


ここまで頑張ったという一瞬の気の緩みも出てきた。

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やはり川内選手はこれ以上ペースが落ちそうに無い。レース終盤になるにつれてエネルギーが枯渇していくぼくと比べると、川内選手はこのペースなら自身のエネルギーを再利用しながらどこまでも走れそうなイメージ。

ここまでの消耗は何も無かったように、ぼくという船をあっさり乗り捨てて、リース選手と先へ行ってしまった。


どんどん距離が離れていく。


40km通過、2時間10分58秒(35-40km17分10秒)。

今の余力ならラスト2.195kmが8分かかることはないはず。

ベスト更新は間違いないだろう。


できればギリギリ更新より、1秒でも稼ぎたい。

最後のスペシャルドリンクもキャッチして、本当に最後の勝負。

 

40-41kmはかなり苦しんだが、あと1kmは足が戻ってきた。

よし、いけるぞ!


ラスト250mの看板をくぐり、フィニッシュゲートが見えてきた。


ラスト100m、ほんの軽いテコボコに足をとられる。

「あっ」

ほんの一瞬、時間がスローモーションになったように、転んで自己ベストが台無しになる未来が見えたが、なんとか踏ん張った。

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思ったより本当にコケそうになっていた。

 

目の前に表示されるタイムを見ると、まだ2時間18分になったばかり。おお、思ったより速いぞ。

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結果は2時間18分24秒(22位)。


約6年更新できてなかった自己ベストを35秒更新(2019神戸2:18:59)。

そして、長年憧れていた海外マラソンでの自己ベストもようやく達成できた。


難しい展開で成果を残せた事には素直にホッとしている。

 

しかし目標の2時間16分にはまだ遠く、万全の準備と高いモチベーションで臨んだレースとしては満足とは言えない内容だった。

 

23kmで絶好のペースだった前の集団につけなかったのが悔やまれる。

 

16分台を狙う集団は少なく、流れるようなイーブンペースで好記録が狙えるのはよほど運が良い時くらい。

まず、3:10/km切りは(マラソンのリズムで)余裕を持って対応できないと難しいなと感じた。

 

やはり課題はスピード。

それ、いつも言ってないか?今更やれるのか?

いや、やるしかないのだ。

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結果

2時間18分24秒(PB・22位)

(5km)15:41/16:08/16:17/16:17/16:16/16:40/16:25/17:10/7:25

HR:163

👟METASPEED EDGE PARIS

👟POLAR Pacer

 

⭐︎6年振りPB

⭐︎海外でのPB更新は初

高知県記録まで、あと1分51秒

 

次回はもちろん現地までの移動、観光やレース前後のお楽しみの模様を紹介します。

 

↓昨年のレース振り返り

www.takemarun.com