まるランニングマガジン

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Takemaru Yamasaki マラソンランナー&プロランニングコーチ

ぼくが戻ってきた理由。8年ぶりの高知龍馬マラソン振り返り【準優勝&コースベスト6分33秒更新!】

高知龍馬マラソン2023振り返り。

 

 

 

5時半前に起床して、朝食のパンとバナナとヨーグルト、食後にコーヒーを飲んでいつもどおり準備完了。

ぼくは全国や海外のマラソンにも参加するようになったが、改めて生まれ育った地元で行われる高知龍馬マラソンが世界で1番体調を整えやすい大会なのは間違いないだろう。

 

今日はとても調子が良い。気持ちは昂ってきたが、変な緊張やプレッシャーはほとんど無い。普段通りで走る事に集中しやすい環境なので心身がリラックスできている。

 

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レース1時間15分前にまるRCチームで決起集合記念撮影。その後ウォーミングアップへ。

荷物預けが以前と違って?県庁前になっていた。大きなマラソンらしく荷物預けの締切や整列が早めでややバタバタしたが、地元なので穴場のトイレの場所もわかっているし、特に不安は残さずアップ終了できた。

 

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整列して、近くの選手と談笑しつつ、瀬古さんや金さんの挨拶も終わり、そのうち青学他前回上位の招待選手もやってきた。

今朝は曇りで朝から気温が10℃超えで、準備や整列も過ごしやすかった。

気がついたら5分前に。

 

レーススタート。

 

目玉の青山学院大学駅伝部は、直前の情報では30kmまで3:30/kmペース走で1年生はそこで終了、他の選手はラスト12kmフリーとの情報。

それまで全員オープン参加だとか、全員完走する予定は無いとか噂のような怪情報も飛び交っていたので、何が本当かはわからなくなってしまったが、とりあえずあまり意識し過ぎないようにした。


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ぼくの先頭集団としての目安は、3:15〜20/km付近。前回優勝者の"JP"こと山口純平選手が良い感じのリズムでレースを引っ張っていく。

最初は周りの様子を伺いつつ、集団の後ろに潜もうかなと思ったが、他の選手も2〜3番手の位置にはいたくない空気を感じたので(すぐに前に出される可能性がある)、ここは無駄な動きはせず素直に先頭の真後ろにつく。

 

先頭集団はしばらく9名で進んだ。神戸コマネチRCの小田俊平くんや高知のK-up勢等想定通りのメンバーだ。

 

5km通過は16分31秒。本当にぼくとしては理想的なペース。この後給水と同時にぼくが1kmほど前に出たが、すぐに小田くんとJPが前に出て良いペースで引っ張ってくれた。

2人とも何度も県外のレースで同じ集団で走っている選手だし、リズム感もなんとなくわかっているので走りやすい。

今回の5km毎に置かれてるゼネラルドリンクも飲み慣れてるポカリで、水分補給も心配無しだ。

 

沿道は予想以上のどこもびっしり沢山の応援で、有難いことにぼくの名前を呼んでくれる応援も多い。ここでも地元の優位性を感じる。

 

中心地から、人の多い南国バイパスをしばらく通って、10km手前で右折。ぼくはコースをほぼ把握しているので、5kmの給水後は無駄に左右に動かず右をキープしていた。

5-10km通過は16分22秒。相変わらず素晴らしいペースだ。


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10kmを過ぎたあたりから向かい風が吹き、やや雨もパラついて少し嫌な感じの条件になった。徐々に小田くんが引っ張る展開が多くなる。

最初のプチ難所である「蛸の森トンネル」の上り坂。アキレス腱に不安がありポイント練習ができてなかったというJPの呼吸が少し荒い。

10−15kmは16分34秒。やや落ちたが風を考えるとまだまだ良いペース。このあたりから交代してぼくが自分のリズムでしばらく引っ張る。後ろをチラ見すると、思ったより人数が絞られてきている。

 

しばらくしてまた小田くんが前へ。

 

一騎討ちは突然に。

 

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このあたりからテンポが一つ上り、徐々に後ろの3名が離れて、小田くんとぼくの一騎討ちになった。

想定より早い段階でレース展開が進んでいる。10時になるのでそろそろテレビ中継が始まるな、それまでに離れたらイヤだなぁ、などと考えていた。

 

ペースが速くなっているが、ぼくにはまだまだコントロール可能な負荷だと感じた。やや速いとは思うけど、気分が高揚するような心地良いスピード。

 

名物の三里中学校の演奏が流れる。銀河鉄道だったと思うが、ここでまたテンションが一気に上がってきた。

 

今日は本当に調子が良い。最高のレースができるぞ…!!

 

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気分が良い所で、いよいよ”最大の難所“である高低差45mの「浦戸大橋」に突入。500mを一気に駆け上がるきつい所。

ぼくのプランとしては、「ここはなるべくレースの山場とせず、冷静にリズムを保って凌ごう」というものだった。

 

だがここでも小田くんのプッシュはさらに増した。レース前は落ちそうと言っていたが、ここでへばるどころか、余裕があったはずのぼくもついていくのが精一杯の負荷まで追い込まれる。

 

まずいぞ、ここは無理してでもつくべきか…?

ぼくはなるべく、弱みを見せない程度に、少し離れて様子を見ることにした。

ようやく坂の頂点に到達。ハーッ、ハーッ…。

下りでなんとか追いつこうとするが、結構頑張らないといけない。

 

15-20kmは16分19秒で、浦戸大橋を終えて中間地点を通過、1時間9分19秒

ここまでは本当に理想的なペースだ。まだまだついていくぞ。

 

しかしぼくがギリギリの所で着いていたのを察知してか、ここから追いつくと細かいギアチェンジでまた差を開けられてしまう。

 

 

我慢の後半戦へ。

 

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くっつかれるのを拒否され、徐々に差は広まっていった。

マラソンというのは見えない身体の残りエネルギー残量と相談しながらのレース。ただムキになって離されないことだけを考えては30kmまでに燃料を燃やし尽くしてしまう。

 

ぼくは距離を空けつつも、これ以上離されないように粘る作戦をチョイスした。

 

22kmで「ごっくん馬路村」ゆずジュースを飲んで少しスッキリ。

20-25kmはなんと16分12秒とさらにペースアップ。抑えるはずの難所のアップダウンのある区間で、そりゃきついはずだ。

ぼくの“マラソンセンサー”は正常に作動していたようだ。まだ走りは崩れてない。ここが1番の踏ん張り所、まだまだ狙えるぞ。

 

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ペースアップの勢いを借り、単独走になってもリズムを保っていきたい。

通称“花街道”のひたすら真っ直ぐ続く海岸線は幸いにも無風で絶好の条件。

 

しかし、浦戸大橋で追い込んだツケか、徐々に脚にキテるのを感じてくる。

まだ全身は元気に動いてる。力んだら終わりだ、疲れてる中でもなるべく柔らかく。

 

小田くんとは5秒ほどの差で、中央のコーン2つ分以上離されないようにと思いながらなんとか粘っていたが、徐々にその差が開いていった。

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ここで終盤の隠れ難所である「仁淀川河口大橋」へ。試走もしたが、実際レースになると後半疲れてる所での短く急な坂が思った以上にグッと、ボディブローのように効いた。

 

25-30kmは16分43秒。ふー、落ちたがまだ大丈夫。しかしここからがマラソン。単独走が続き、心身共にきつくなってくる非常にタフな展開だ。

ここ2回のマラソンでは準備不足もあり4:00/kmに失速してしまったので、悪いイメージも残ってる。

 

しばらくして折り返しで、高知農業のはまぐちくんが3位で健闘しているのが見えたし、青学の選手もグッとペースアップしてこないか怖かったが、なんにせよ自分が今の走りを崩さないことが順位も守る1番の近道だと思って集中した。

 

そうすると、32km付近だったか、少し身体が軽く回復したように感じた。

35kmまではそこまで長く感じず、この5kmはまた16分43秒。よし、ここでペースキープ!

順位はどうあれ、今日は間違いなく良い結果が出ると確信。

 

まだ優勝を諦めていたわけではないが、徐々に自分自身があと7km、どういう走りをできるかに焦点を変えつつあった。

 

前日の夜に2014年に優勝した時の録画中継を見ると、思ったより終盤はほとんど歯を食いしばって、いかにもマラソンはきついですみたいな顔して走ってるな、これでは今のレベルの上がった龍馬マラソンでは通用しないと感じた。

 

もちろんここまできたら相当疲れているけど、一気に崩れていくラインを越えないように、顔の筋肉を少し緩め、できるだけゆっくり深い呼吸をしてリラックスできるよう努める。

37km、38km、39km…と順調に距離が進んでいく。


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35-40kmは17分15秒。さすがに落ちてしまったが、大幅なペースダウンではない。

 

終盤の“失速ハンマー”が落ちてこないよう、丁寧にここまで積み重ねてきた。

競技場に向かう直線で小田くんの黄色いユニフォームもチラっと見えた。

 

そして最後の春野の坂へ。龍馬マラソン名物、最後の最後でいじめのような500mほどの急坂がある。

 

これがもう、本当に地獄のようなきつさだった。全身がビリビリ痺れる。3回目だけど、こんなにきつかったっけ。

 

競技場入って、ホッとひと息。さすがにもう抜かれることはないだろう。残り200mで時計を確認。

 

今回は最後まで駆け抜けようかと思っていたけど、タイムを見て、せっかくだから原点回帰、会心のまるポーズでフィニッシュしようと決めた。


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2位でフィニッシュ、タイムは2時間20分44秒

2014年に優勝した時のコースベストを6分33秒更新する、自分でも驚きの好記録だった。

この急坂のある難コースで、しかも22km過ぎからほぼ単独走で粘る非常にタフな展開。

 

フラットなコースなら間違いなく自己ベストは更新できていたはずだ。

優勝した小田くんは2時間19分40秒。2015年の川内選手、板垣選手に次ぐ龍馬マラソン史上3人目の20分切り。

優勝には届かず悔しい気持ちもあるけど、今日は決してこれ以上のレースはできなかったと思う。

 

競技人生最高の走りができた。この2位は胸の張って応援してくれた人達に報告したい。

 

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しばらく誰もやってこない。

疲れて座り込んで、ボーッとモニターに目をやると、青学の選手が坂を登っている映像が映った。

 

3位はさすがの粘りを見せたJP、その後志貴選手がきて、続々と青学勢がフィニッシュ。

一気に上位の記録水準が上がり、高知県勢での10位入賞はぼく1人となった。

 

ぼくが8年ぶりに龍馬マラソンに戻ってきたワケ。


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表彰台に立って、無性に込み上げてくるものがあった。

 

みんな見たか、やっとできたんだ、これが19歳から15年間、地元高知で1人で走り続けた山﨑竹丸というランナーの走りなんだ。

 

全国トップレベルの選手と比べたら大したタイムじゃないかもしれない、ぼくがもっと努力していればもっと良い環境で競技力を磨けたかもしれない。それでも、ぼくが今まで積み重ねてきた全てが今日のレースなんだ。

 

思えば2014年、ぼくはただ龍馬マラソンに出て、そこそこの走りをして運よく優勝したような内容だった。

翌年、レース前は「川内優輝さんは調子が悪いから勝負できる!」と散々メディアを煽るような道化を演じて惨敗の4位。

 

力不足を感じ打ちのめされたぼくは、しばらく外のレースを中心に舞台を移した。そしてぼくは何のために“わざわざ”8年ぶりに龍馬マラソンに帰ってきたのか?今、ようやく真に理解した。

 

ぼくのやってきたことを、生まれ育った地元のコースで沢山の人達に見てもらえた事、これ以上に幸せなことはない。

 

小田くんがいなかったら今日の走りはできなかったし、自分の本当の気持ちにも気づけなかったかもしれない。

 

8年前、ぼくはこういうレースを見せたかったんだ。

 

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ありがとう小田くん、ありがとう川内さん、ありがとう龍馬マラソン。

 

(高知新聞スポーツ欄14面令和5年2月20日付)

 

 

レース結果

 

2時間20分44秒(2位). Ave.3:20/km

5km…16:31/16:22/16:34/16:19/16:12/16:43/16:43/17:15/8:04

HALF 69:19-71:25

30km 1:38:42、35km 1:55:25

 

☆コースベスト6分33秒更新!(龍馬マラソン歴代4番目の記録)

 

👟▷METASPEED EDGE

▷Polar Pacer

 

本格的に走り始めたのは中学の部活からで、所属するチームが無くなり社会人ランナーとして1人での活動始めたのが19歳です。

↓だいぶ昔に書いた龍馬マラソン振り返り記事。今読むとまた面白い(笑)

www.takemarun.com